お世話になっております。奎コンサルティング代表の富安です。
今回は、2024/12/1に中国で施行された「両用品目輸出管理規制条例」(以下「本条例」)について、どういった内容のものか、実務上の対応方法等について解説したいと思います。
結論から申しますと、中国製品を仕入れ、米国企業や米国資本の企業に再販等するような事業を行う企業様以外は、大きな影響は今のところはないのではないかと感じます。
両用品目輸出管理規制条例とは
本条例は、中国にて2020/12/1に施行された安全保障輸出管理の基本法である「中華人民共和国輸出管理法」(以下「輸出管理法」)の下位法令であり、米国の輸出管理規則(EAR)に相当すると考えられる法令となります。(※参考:中華人民共和国輸出管理法(仮訳))
本条例の着目すべきポイントととして大きく以下2つあります。
①輸出管理規則(EAR)と同様に再輸出に関する規制も設けられた(本条例第49条)
②輸出管理規則(EAR)におけるDenied Persons ListやEntity Listと同じような「懸念対象者リスト」が設けられた
まずは上記①の再輸出規制については本条例第49条に以下のように規定されています(中国両用品目輸出管理条例 仮訳(CISTEC)から抜粋)。
第四十九条
国外の組織や個人が中華人民共和国の国外で特定の仕向国や地域、特定の組織・個人に以下の貨物、技術やサービスを移転・提供する場合、国務院の商務主管部門は関係する事業者に本条例の関連規定を参照して実行するよう要求することができる:
(一)中華人民共和国を原産とする特定の両用品目を含有、統合または混合して国外で製
造された両用品目;
(二)中華人民共和国を原産とする特定の技術等の両用品目を使用して国外で製造された
両用品目;
(三)中華人民共和国を原産とする特定の両用品目。
本条例第49条を米国輸出管理規則(EAR)と比較して考えると、(一)~(三)は以下のように整理できます(参考:米国の対中輸出規制強化に対する中国の対抗措置について)。
(一)デニミスルール(価額ベースで、特定の中国原産品が一定割合含有・統合・混合)
(二)外国直接製品ルール(FDPR:中国原産の特定の技術等の両用品目を使用して製造)
(三)特定の中国原産品目(そのもの)
①については、本条例第49条ではあくまで「特定の品目」や「特定の地域や組織等」に対して「要求することができる」ものとなります。つまり、中華人民共和国両用品目輸出管理リスト(仮訳)で記載されているリスト品目全てが再輸出規制の対象となるわけではなく、当該リスト(或いは当該リスト以外も含む可能性はある)の内、中国当局が要求したものが再輸出規制の対象になると考えられます(そもそも中華人民共和国両用品目輸出管理リスト(仮訳)は中華人民共和国輸出管理法(仮訳)第9条に基づくもので、当該リストに規定のものを中国から「輸出」(再輸出ではない)する場合に、中国当局の事前許可が必要となります。他にも輸入禁止品目も定められていたりしますので注意が必要です)。
昨年2024年時点で中国当局が要求したものは、2024/12/3に中国当局より公表された中国商務部による輸出管理条例等に基づく米国向けの両用品目に対する輸出管理の強化について(速報)があります。
②については、例えば2024/12/27に米国企業7社が報復リストに追加、2025/1/2に米国企業28社がエンティティリストに、米国企業10社が信頼できないエンティティリストに追加等が挙げられます(根拠:中国の最近の輸出規制とその関連動)。
上述のものは全て対米国向けの措置となっており、このことからも中国輸出管理法及び再輸出規制は米国への対抗措置を意識した規制である側面が強いと考えます。つまり中国製品(或いは中国製品が組み込まれた製品、中国原産品で生産した製品含む)を米国企業や米国資本が入った企業へ転売等する場合により慎重になった方が良いかと考えます。
繰り返しにになりますが、本条例は基本的には米国への対抗措置として制定された側面が強いです。中国側の視点で考えると、本条例の規制対象を拡大すると自国の製品の販売・輸出力低下ひいては自国の競争力低下に繋がりかねず、そういった観点からも、基本的には米国への制裁が主になろうかと推測されます。
加えて、現時点では対米国への中国原産品の再輸出についても中国当局に事前の許可申請をすれば、割と通っているということも耳にしておりますので、米国輸出管理規則(EAR)の再輸出規制と比べても、過度に恐れる必要はない条例かと感じます。
罰則規定
本条例の罰則としては、警告、違法行為の停止、違法所得の没収、違法所得が10万元得以上の場合は違法所得の3倍以上5倍以下の過料、違法所得がない又は違法所得が10万元に達しない場合は10万元以上50万元以下の過料。等があります(本条例第41条)。
罰則については、域外適用が実態として効力を生じるかという観点で、現実的かどうかは議論の余地があろうかと思います。
しかしながら本条例に違反すると、両用品目輸出管理規制条例とはの②で述べたような懸念対象者リストに加えられる可能性があり、そうなると中国から製品仕入れや、第三国企業からの中国製品が組み込まれた製品の仕入、中国企業との取引等が制限される可能性があり、中国関連ビジネスを行う企業にとっては甚大な影響を被る可能性があります。
実務対応
本条例の着目ポイントや罰則はお判りいただけたかと思いますが、では実務的には結局何を確認したらいいのか?と疑問に思われるかもしれません。その点、以下(1)~(3)の通り整理しました。
<前提>
中国原産の特定の両用品目を組み込むなどして中国域外で製造された両用品目、中国原産の特定の技術等の特定品目を使用して中国域外で製造された両用品目、中国原産の特定の両用品目の再輸出規制に対応するためには、以下の実務対応が必要かと考えます。
<実務対応>
(1)中国当局(商務部)による再輸出規制に関する公表の確認
中国の再輸出規制は、中国当局によって個別に特定された両用品目が対象となるため、中国当局による再輸出規制の適用に関する公表内容を確認する必要があります(基本的には中華人民共和国両用品目輸出管理リスト(仮訳)に規定のものが規制対象になると考えられる)。
この点、JETROやCISTECのウェブサイト上で、中国当局による輸出管理規制の内容が掲載されるため、随時確認するのが良いかと考えます。
(2)キャッチオール規制への対応
輸出管理法第12条に規定の通り、日本の外為法上のキャッチオール規制に似た規制が存在します。この条項に規定の「輸出者」の定義に再輸出をするものも含まれるのかは議論の余地はあるものの、安全をとって守っておく必要があります。
輸出管理リストに記載された管理品目及び臨時管理品目以外の貨物・技術とサービスに
おいて、関連する貨物、技術とサービスに以下のリスクが存在する可能性のあることを、輸
出者は知っている、あるいは知っていなければならない、又は国家輸出管制管理部門の通知
を受けた場合は、国家輸出管制管理部門に許可を申請しなければならない:
(一)国の安全と利益に危害を及ぼす;
(二)大量破壊兵器及びその運搬手段の設計・開発・生産あるいは使用に用いられる;
(三)テロリズムの目的に用いられる。
このキャッチオール規制の部分については、輸出時において日本の外為法に則った対応(詳細は日本の外為法に準拠した輸出管理の実務と考え方をご確認ください)に加え、両用品目輸出管理規制条例とはの②で述べた「懸念対象者リスト」をJETROやCISTECのウェブサイトにて随時チェックしておけば違反リスクを低減できると思います(日本のキャッチオール規制とほぼ似ているため、日本法に準拠した対応をしておけば一定程度リスク低減できるという意味です)。なお「懸念対象者リスト」は。上述の通り現時点では米国の軍関係がほとんどであり、今後の基本的には米国関連になろうかと思います(上述の通り本条例自体が米国への対抗措置に主眼を置いているものと解されるため)。
(3)仕入先への確認と報告義務を契約上で規定
中国企業や第三国の企業から、中国原産品を仕入れる場合で、当該中国原産品を第三国へ輸出する場合等は、まずは製品や中国法令に詳しいであろう仕入先に、本条例含め輸出管理法への抵触有無を確認すべきかと考えます。
加えて、仕入先との契約条件に①中国法令に違反していないことの表明保証、②規制リストやキャッチオール規制上の確認や対応をする義務を課す、③中国の法令の変更や何か問題が生じた場合の報告義務を課す、といった条件を規定しておくことで一定のリスクヘッジになろうかと思います。加えて、このような契約上の手当をしておくことで、仮に本条例の再輸出規制に違反してしまった場合でも、このような対応をしていたことを中国当局に説明することができ、中国当局に情状酌量が認められる可能性もあります。
Q&A
- 日本の輸出管理法令(外為法)や米国の輸出管理規則(EAR)上で問題ない輸出行為であれば、中国の本条例上も問題ないという整理は可能か
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そのような整理は基本的には難しいと思われます。日本や米国に比べ、中国はワッセナーアレンジメントに参加しておらず、本条例の規制対象も、日本やアメリカと比べ限定的ではありますが、中国商務部、一部の両用品目の対米輸出管理を強化、12月3日に即日施行(中国、米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロにて公表された規制対象品にガリウム等も含まれ、日本やアメリカよりも広範に規制している部分も見受けられるため、一概に日本やアメリカで規制対象外だからといって、中国でも規制対象外と言えるものではないと考えます。
- 中国から仕入れた製品を、中国に返送する場合(修理品の返送等)は本条例の再輸出規制が適用されうるか
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本条例の再輸出規制は適用されないと考えます。輸出管理法第2条(中華人民共和国輸出管理法)の輸出管理の定義は以下となっており、中国に対する輸出は輸出管理の定義に含まれていないためです(関係するのは中国側の「輸入規制」かと思います)。加えて、懸念対象者リストの懸念もありますが、中国当局が中国の組織や個人を当該リストに加えることも考えにくいため、質問のような状況では中国の再輸出規制は適用されないと思われます(米国輸出管理規則(EAR)も同様の考え方かと思います)。
国が中華人民共和国国内から国外に管理品目を移動する、及び中華人民共和国の公民、法人と非法人組織が外国の組織と個人に管理品目を提供することに対して、禁止あるいは制限措置を採ることを指す
- 中国から仕入れた製品を、日本国内の顧客に販売する場合は、本条例違反になることはない、という理解でよいか
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例えば日本の特定の組織や個人が、中国当局によって制裁対象(懸念対象者リストへの掲載含む)となった場合、日本国内であっても、制裁対象である組織や個人へ販売する行為は本条例違反になる可能性は理論上は否定できません(勿論、日本そのものが制裁対象になる場合は、仕入行為自体ができなくなるということもありえます)。但し、上述している通り、本条例は米国への対抗措置という側面が強いため、このようなリスクは極めて低いと考えます。
- 中国企業にソフトウェアの開発を委託します。この場合、中国から日本への開発成果物のソフトウェアを輸出する場合において、中国の輸出管理法等において、中国当局において輸出手続きが必要と伺ったのですが本当でしょうか
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中国企業から当該ソフトウェアのソースコードの開示を受ける場合は、中国法上の「技術の輸出」に該当し、中国当局への事前報告等が必要になります。一方でソースコードの開示を受けない場合は、技術の輸出に該当しないため、特段対応不要という理解です。
なお、当該中国企業側にて委託元から委託料を受領する際、中国当局から委託料の送金根拠となる契約書等を提出を求められることが基本であり、その際に、中国法上で必要となる許認可や契約の登録が必要な場合はその証跡を提出する必要があります。この点、原則的には委託先である中国企業が送金口座の管理銀行に当該対応の有無を確認するべきかと思いますので、委託先にこの点も確認した方がよろしいかと思います。
- 両用貨物を再輸出する場合の中国当局への許可申請はどのように行えばよいでしょうか。
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CISTECが公開する中国両用品目輸出許可申請表作成ガイドラインの公表等についてが参考になりますのでご確認ください。